日本の花見とベトナムのテトの花は、どちらも春の花を愛でる習慣です。ただし人が花のところへ行くか、花が人のところへ来るかが逆になっています。

もともとは梅だった

奈良時代、「花」といえば梅を指しました。中国の文物とともに入ってきた梅を鑑賞するのが貴族の花見です。

これが桜に移るのは平安時代です。『日本後紀』には、嵯峨天皇が弘仁三年(812年)に神泉苑で桜の宴を催した記録があり、記録に残る花見の早い例としてよく挙げられます。やがて和歌で「花」といえば桜を指すようになりました。

全国で一斉に咲く理由

日本の桜が「今が満開」と全国規模で語れるのは、ソメイヨシノという品種の性質によります。

ソメイヨシノは江戸末期から明治にかけて広まった園芸品種で、接ぎ木で増やされます。つまり日本中のソメイヨシノは遺伝的にほぼ同一のクローンです。同じ条件なら同じタイミングで咲く。だから「桜前線」が南から北へ動く、という言い方が成り立ちます。

咲いてから散るまではおよそ一週間。この短さが花見という行事を成立させています。

場所取りという仕事

会社の花見では、場所取りが仕事になります。朝からシートを敷いて席を確保する役。慣習として新しく入った社員が任されることが多く、外国人社員にとっては意味の分かりにくい指示の代表格です。

「なぜ数時間も座っているのか」を説明せずに頼むと、理不尽な命令に見えます。短くても理由を添えると受け取り方が変わります。

ベトナムの花は家の中にある

ベトナムではテトに花を飾ります。北部はhoa đào(桃)、南部はhoa mai(黄梅)です。気候が違うので、咲く花も違います。

違うのは置き場所です。木ごと、あるいは枝を切って家の中に持ち込みます。市場で木を選び、バイクに積んで帰る光景がテト前の風物です。

つまりベトナムの花は、客を迎える家の中心に置かれるもの。日本の花見のように、外へ出て木の下で飲食する習慣はありません。

どちらに誘うか

ベトナム人社員を花見に誘うなら、「外で地面に座って食事をする」という部分を先に伝えておくと親切です。花を見るだけの集まりだと思って来ると、服装も持ち物も合いません。

逆に日本人がテトにベトナム人の家を訪ねたら、玄関の桃や梅に一言触れるといい。その木は、その家が選んで運んできたものです。