箸を使う国どうしなので、日本とベトナムの食卓作法はよく似ています。ただし一か所、意味が正反対になる場面があります。
共通するタブー
ご飯に箸を垂直に立てる。日本では「立て箸」「仏箸」と呼ばれ、枕飯——亡くなった人の枕元に供えるご飯の形だからです。
ベトナムでも同じく嫌われます。箸を立てた飯碗は、祭壇に供える形そのものだからです。理由まで一致しています。
箸から箸へ食べ物を渡すのも日本では強い禁忌です。「箸渡し」と呼ばれ、火葬後の骨上げで遺骨を箸で受け渡す所作と重なるためです。
正反対になるところ
ここからが違います。ベトナムの食卓では、自分の箸で料理を取って相手の碗に入れるのがもてなしです。年長者や客に対して、年少者が気を利かせて行う行為とされます。「gắp cho」と言います。
日本ではこれは失礼になりかねません。大皿から取るときは取り箸を使うのが作法で、自分の口をつけた箸で他人の分を触るのは避けられます。
ベトナム人社員が善意で上司の皿に料理を入れ、日本人の上司が固まる——起きやすい場面です。どちらも間違っていません。前提が違うだけです。
音を立てて食べる
もう一つ逆になるのが音です。日本ではそばやラーメンをすする音は許容されます。ベトナムを含め多くの国では、食事中に音を立てることは行儀が悪いとされます。
日本人側が「すすって食べていい」と言っても、相手は心理的に抵抗があります。無理に勧める必要はありません。
食前の言葉
日本は「いただきます」、食後は「ごちそうさま」。全員が同時に言います。
ベトナムでは、年少者が年長者一人ひとりに向けて食事を勧める言葉をかけます。「con mời bố mẹ ăn cơm(お父さんお母さん、召し上がってください)」のように、相手ごとに言います。
形は違いますが、食事を始める前に一言置くという点は同じです。